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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(あ)205号 決定

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人藤原俊太郎の上告趣意第一点は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない(なお、入場税法((昭和三七年法律第五〇号による改正前のもの))二五条一項一号前段の入場税逋脱罪が、同法一二条に定めるその納期日の徒過により既遂となるものとした原判示は、正当である。)。同第二点、第三点は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張を出でないものであつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(田中二郎 五鬼上堅磐 柏原語六 下村三郎)

弁護人藤原俊太郎の上告趣意

第一点 法令違反について

第二審高松高等裁判所(以下第一審高松地方裁判所をも含めて原審と略称する)は入場税法第二十五条一項一号の規定の解釈と運用とを誤まつておる。

即ち原審は同法に示す詐欺その他不正の行為によつて入場税を免かれた場合と右と同一の方法によつて入場税を免かれようとした場合とを区別して「後者の場合には論旨のいふように申告書の提出期限をもつて犯罪行為の終了時であると認められることもあり得るであろうが前者については申告書の提出期限後といえども改めて正当な申告をして入場税を完納する場合もあり得るから納期限の経過をまつて始めて確定的に入場税を免かれたといふべく、したがつてそのときに犯罪行為は終了したと解するのを相当とする」と解釈し判断した。

而し右は不当な解釈運用である。

何となれば同法に示す前段と後段とを区別し犯罪行為の終了時即ち公訴時効の起算日を異ならしめる理由もまた合理的な根拠もないのみならず後記のように全く無意義の結果と為るをいかにせん。

犯罪行為の終了時即ち公訴時効の始期は関係者の手許へ犯罪行為の内容を具体的に包含する意思表示が到達したときに始まるものと解釈することが正しいのではなかろうか。

即ち本件の場合別紙犯罪一覧表第一(3)号については昭和三十年十一月分に関する入場税額の申告であつて被告人等は同年十二月五日付を以てその課税標準額(入場税額金六万二千壱百円を逋脱することの内容を包含する申告書)を所轄丸亀税務署に申告した事実について原審以来明確に為つておる処である。

果して然らば右申告書が丸亀税務署に提出せられたことによつて被告人等は前記入場税法第二十五条一号に示す前段及後段の罪を犯した場合に該当するものと思料されるからこの時を以て犯罪行為あつたものと解することが適当である。

たとへ納期日が同月末であつたとしても納期日はいわゆる支払期日であつて支払ひせよと指定せられた日である。

従つて必らずしも納期日に支払ひ完了するものとは限らない、現に本件において被告人等は右十二月末日の納期日を延滞し支払つておらない。

去れば納期日と犯罪行為の内容を具体的に明らかに表現した時とは自ら異なるものであり何も納期日と犯罪行為の終了日とを合一にせざるべからざる理由も合理的な根拠もないと思われる。

何となれば判示の様に納期日は十二月末日であつたからこの納期日を経過したときが犯罪終了のときといふのなら若し納期日が経過して三年経つても尚不正申告に基づく税金の納付のなかつた場合を仮定して検討すればいかなる結果を招来するか。

即ちこの場合公訴時効は消滅するのみならず同法の前段と後段とを区別してその公訴時効の起算日を異にすることが全く無意義に帰することと為る。

而して本件の場合公訴の提起が為されたのは昭和三十三年十二月十二日であるが公訴時効はその前即ち昭和三十三年十二月五日を以て三ケ年を経過完成しておる。

去れば本件においては公訴時効完成後に公訴の提起あつたものとして免訴の裁判あつて可然ものと思料する。

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